●2003年03月 『あの土地へ…再び』編
其の2:みやこ路
「……のどかなところだな……」
「そうですねぇ。静かでいいところですねぇ」
「杉ばっかで花粉が多いのがいただけないけどな」
「ふふふ。少しばかり我慢してくださいね〜。この季節はしょうがないですから」
「ああ……かなり地獄だけどな」
俺たちは奈良の長谷寺にやって来ていた。
昨夜「ムーンライトながら」で出発した後、大垣、米原、京都、奈良で電車を乗継ぎ、
超ローカル線爆発な桜井線に乗った後、近鉄で2駅。
距離的には奈良からそう遠くはないはずだが、意外と時間はかかるものである。
京都で朝食をとるため途中下車もしていたから、時刻は既に11時を回ろうとしていた。
「『青春18きっぷ』の旅だっていう制約が無ければ、名古屋から近鉄特急使えたんだけどな」
「その方が早く着くんですか〜?」
「そりゃもう。9時くらいには到着できてたんじゃないか?」
「2時間も早いですねぇ。タイムイズマネーな方はそちらを選ぶでしょうねぇ」
「ま、俺たちは別に急ぐわけでもないし、これでいいんだけどな」
「そーですね。お金もありませんし(^^;)。のんびりいきましょう〜v」
まぁ、俺たちには時間なんて全然問題じゃなかった。
いや、正確には、問題にできるだけの財力が無かった。
「ふへぇ〜……すげぇ階段」
「これがあの有名な、長谷寺の回廊ですね〜v」
「たまに某国営放送のお寺番組で流れてたりするよな」
「ほぇ? 見るんですか? そういう番組」
「いや、ウチの魔神が」
「……魔神?(汗)」
「……あんまり深く詮索せんでくれ。俺の命がなくなる」
「……はぁ」
2人は回廊をゆっくりと登っていく。一段一段、しっかりと踏みしめながら。
ふと周囲を見回してみると、あたりは牡丹の花壇になっていた。
シーズンに来れば、それは見事なことだろうな……。
いつかGWの頃にでも来てみようか。そんなことを考えた。
「あ、あれが本堂ですね〜v」

「そうみたいだな。「寺谷長」って書いてあるし」
「あ、ちょっとだけ中入れそうですよ〜?」
「よし、行ってみるか」
堂内へと足を踏み入れる。
中では僧たちが経を詠み上げている。
今はその時間なのだろうか。それとも何かの供養でもしているのだろうか。
堂内では2人の女性がお百度参りをしていた。
願掛けをするその先にあるのは、鋭く、そして柔らかな眼光を放つ、観音。
圧倒的な存在感。
そして今にも動き出しそうな躍動感。
――凄い……迫力。
読経のせいか、堂内の暗さのせいか、はたまた観音のせいか。
心なしか、息苦しさというか、重苦しい雰囲気を感じる。
回廊を歩いている時の、浮き足立った気分は今はもう無い。
俺は別に信心深いわけじゃない。
宗教何ざどーでもいいと思っている現代日本人の典型だし、仏像や何かを見ても、芸術作品としての評価しかしない。
でも。
…俺はこの時、古の人々や、信仰の厚い人々の気持ちが、少しだけわかったような気がした。
「う〜ん……すごい迫力でしたね〜」
「ああ、なんかもう圧倒されまくりだよ」
「ふふふ。局長さん、顔が神妙な表情になってましたよ〜♪」
「あ、やっぱし? なんか顔の筋肉が疲れてるんだよな。普段やらないような表情したせいだな」
「疲れるほど長時間いなかったじゃないですか〜。ほんの数分間くらいですよ〜?」
「でも、疲れたんだよ。あー、もう、疲れたせいか腹減った〜」
腹の虫がぎゅるると鳴いた。
「顔の筋肉の疲れとは全く関係ないような気がしないでもないんですけど、でもお腹が空いたのは同感です〜v
どうです? このあたり『にゅうめん』が有名らしいですし食べていきませんか〜?」
「ん、それもいいと思ったんだが。結構高いだろ。それ」
「そうですねぇ……。定食で千数百円。そこそこしますねぇ。あ、でも他に何かあるんですか〜?」
「一度、奈良まで戻るだろ? そこで途中下車すれば、すんげぇモノ食えるぞ」
「すんげぇモノ、ですか〜?」
「おう、すんげぇモノ。まぁ、どんなモノかは見りゃわかる。値段的にも安いぜ」
「じゃあそれにしましょうか。お金ないですし」
「よっしゃ、決まりだな。よし、駅に戻るぞ」
「はいっv」
んで。
「どーだ? すんげぇだろ」
「……確かに……すんげぇモノ、ですねぇ」
「以前、部長と来た時に食ったんだよ、コレ。いや〜、この量で600円はありがたいぜ」
「『大仏うどん』ですかぁ。これ、私、絶対食べきれないと思うんですけど〜」
「まぁ、そこはガッツと気合でカバー……」
「できないですよ〜。どう見てもこれ、2人前くらいあるじゃないですか〜」
「そりゃあ大仏だしな」
「はふぅ……ダイエットしてるのに〜(しくしく)」
結局、観雪が半分ちょい食べて、残りを俺が処分した。
俺は自分のモノを1杯食ってるから、量的には約3人前分食った計算になる。
ぐふぅ……満腹。こりゃ夕飯いらないかもしんない……。
「ん〜、これが法隆寺か。ずいぶんと広いな……」
「これは……予想以上ですねぇ……」
その後、俺たちは「大和路快速」に乗り、法隆寺へとやって来ていた。
ぶっちゃけ、そんなに大したことはないだろうと予想してたんだけど、実際は随分広い。
エリアが3つに分かれていて、全てを回ると、余裕で1時間以上かかる。
宝物館みたいなところをじっくりと見て回ったりしたら、それこそ2時間かかる。
俺たちは比較的のんびり派だ。1時間半くらいかかった。
まぁ「玉虫厨子」のところで、「これ密売したらいくらになるんだろうな〜?」などと
観雪とバカ話してたのが原因と言えば、それまでなんだけど。
結局、この日は長谷寺と法隆寺。この2つを見ただけで時間がきてしまった。
もっとも、2つとも凄く良いところだったから、内容は充実してた。
あとは再び「大和路快速」に乗って、大阪のホテルに向かうのみ。
……だったはずなんだけど。
「あ〜っ!」
「な、なんだ? 突然……」
法隆寺から、JR法隆寺駅へと向かうバスの車内で。
「い、今、スゴイのありましたよ。スゴイの!」
車窓を眺めていた観雪が、急に騒ぎ出した。
「スゴイのって…何だよ?」
「いや、よくある昔からの床屋さんってカンジなんですけど〜」
「…けど?」
「名前が『ヘアーサロン ダンディ』。スゴイですよ。これは!」
「ちょっと待て。それはいくらなんでもあり得ないだろ。店の名前として」
「いえ、本当にあったんですってば。駅からすぐ近くですし確認に行きましょう!」
「だぁぁっ! 電車すぐなんだから〜。乗り遅れるだろ!」
「だって『ダンディ』ですよ! 『ダンディ』! ぜひ写真の一枚に入れておかないと……」
「やかましい! 床屋ごときのために電車を遅らせるわけにはいかん! 早く行くぞ!」
「うう……『ダンディ』……」
結局、観雪を引きずってホームに辿り着いたのは、電車が出る直前だった。
まぁ、ぶっちゃけ、俺も気になったけどね。「ダンディ」。
でも、1本電車逃すと、数十分ほど次が来ないし(汗)。
いつかまた見に来るから、その時まで頑張って営業を続けてくれ。
俺はそんなことを思いながら、去りゆく車窓を眺めていた。
「……うう……『ダンディ』……」
「だぁぁっ、しつこい! いい加減、諦めろ!」
「ダンディ……」
<其の2 あとがき>
つーわけで、今回は奈良に行った時の話を書いてみました。
基本的に、観雪が一緒にいること以外は全て実話です。
もちろん「ダンディ」も(笑)。
法隆寺に行かれるご予定のある方は、ぜひ探してみてくださいまし♪
あと、大仏うどんですが、近鉄奈良駅すぐそばの「うどん亭」という店にあります。
商店街入ってすぐ、ちょっと奥まったところが入口です。ぜひチャレンジを♪
次回、其の3「明石海峡大橋」。お楽しみに(?)。
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