●2003年03月 『あの土地へ…再び』編
其の3:明石海峡大橋
「いただきま〜すv」
「いただきます。いや〜、まさかバイキングのメニューにお粥があるとは思わなかったな」
2003年3月9日。朝8時。
ホテルのレストランで俺たちは朝食をとっていた。
「ここって変わってますねぇ。コーンフレークもありますし。普通、ご飯かパンしか無いですよね〜」
「だな。まぁ、でもお粥があるのはいいと思うぜ。朝は食が進まない人でも食べやすいし」
「局長は単に珍しいから食べてるだけですよね?」
「あん? それ以外にどういう理由があると言うんだ?」
俺は好奇心旺盛だった。
(デリケートって言葉が本当に似合わない人ですねぇ)
「ん? 何か言ったか?」
「いえいえ何も。あ〜おいし。ほら局長さん、これ美味しいですよ〜」
俺はお粥を中心とした和風な取り合わせ。
観雪はパンとサラダ中心のアメリカンなチョイスだった。
種類はそれほど多くないが、どれも味は悪く無い。
もっとも、格別おいしい、と言えるものが無いのも事実だったりするので、微妙と言えば微妙であった。
「そういえば、ここってアレがないんだよなぁ」
「何です?」
お粥の上で梅干さんをほぐしながら、ちょっとアンニュイな表情を浮かべた俺に、
素直に反応してくれる観雪。観雪みたいなヤツのことを、聞き上手と言うのだろうか。
「ここ、俺の命の源が無いんだ……」
「命の源……ですか? 何なんです? それ」
訝しげな表情をする観雪。
隠しても意味が無いので、俺はすぐに回答する。
「トマトジュース」
なるほどと言わんばかりに、ポンと手を打つ観雪。
「そういえば好きでしたね〜、トマトジュース」
そうなのだ。実は俺が一番好きな飲み物はトマトジュースだったりする。
うるせぇ、誰が何と言おうが、最高なんだ。俺の命の源だ!
「おう! あれが無いと、俺は生きていけないんだ! あれは…俺の身体を流れる血、そのものだからだ!
うおおおっ! トマトジュースー!! トマトジュース万歳〜!!」
1人盛り上がる俺。
「…………」
一方、冷めた表情の観雪。
「……何? その冷たい視線」
「……早く食べないと、冷めちゃいますよ〜」
「ひょっとして、無視されてる?」
「ツッコんで欲しいと顔に書いてありますけど、そういう見え見えの罠にはかからない主義ですので〜」
「しくしくしく……。俺って……俺って一体」
「ふふふ。いじけないでくださいよ〜」
「いいんだ……俺はもう何もかも失った……。あの窓の向こうを走っている環状線にでも飛び込んで……」
成り行きで視線を向けた窓の外。
目の前に大きな道路が走り、その上を高架の線路が通っている。
オレンジ色をした環状線が、頻繁に行き来しているのが視界の端に映っていた。
そして、そのオレンジの車体に重なるように、上からフワフワ落ちてくる白いもの。
「あ……」
「……? どうかしましたか?」
俺の様子を変だと感じたのか、観雪も窓の外に目を向ける。
「わぁ……雪」
3月上旬。冬が過ぎ去っていくのを惜しむかのような、名残雪。
重く、厚い曇り空から、静かに天使たちが舞い降りていた。
「すごいですねぇ……。今日、外に出たくなくなりますねぇ〜。」
観雪の言葉に頷く俺。
「まったくだ。でも、ここでじっとしてるのはもったいないし……。どうしよっか?」
せっかく旅に出た以上、やっぱり観光はしたい。
「ん〜、そうですねぇ。
兵庫の方は、比較的天気良いみたいですよ? 京都方面はダメみたいですけど。
そっち方面に行ってみれば、良いのではないでしょうか〜?」
観雪ナイス! よくぞ天気予報を見てた!
いや、まぁ、俺も天気は気になるし、普段は必ず見るようにしているんだけど。
昨夜はコンビニでゲットしたライトエロ本「妹〜お兄ちゃんって呼ばせて〜」に夢中だったからな……。
テレビなんてつけるだけつけて、完璧アウト・オブ・眼中(死語)だったんだよ。
観雪の活躍に大いに感謝だ。この意見は前向きに検討せねばなるまいて。
俺は脳内コンピュータを機能させ、兵庫方面で観光ポイントを検索した。
待つこと数分。
「……ふむ。よし、じゃあ明石の方まで行ってみるか。」
「タコさんですか〜?」
観雪らしい反応の仕方だ。
「そうだ、タコさんだ。そのあたりまで行けば、多少は天気も違うだろ。それに、ちょっと行ってみたいところもあるしな」
「じゃあ、それで決まりですねv」
俺の言葉に即答。すばらしい。さすが観雪。お前はいいヤツだ。
これが皐だったら延々と行きたい場所についてモメているところだ。
俺は観雪に1ポイントをあげることにした(何のだ)。
「よし、そうと決まれば出発だ。いくぞ、観雪」
善は急げ。俺は席を立つ。
「わわ、待ってくださいよ〜。まだご飯食べ終わってないです〜」
観雪の皿には、まだ半分ほど料理が残っていた。
前言撤回。こいつ、やっぱし使えねぇ。
俺は心の中で、先ほどプラスした観雪のポイントを取り消すことにした。
「わ〜、これが明石海峡大橋ですか。おっきいですね〜♪」
大阪から快速電車に揺られ、はるばる舞子へ。
ここは明石海峡大橋の本州側に位置しており、
橋の上の展望台に行けたり、
橋の博物館みたいなのを見学できたりする。
つまりは屋内の観光施設が整った場所なのである。
しかも、駅から近いのでアクセスも便利。
これがここを今日の観光ポイントに選んだ理由だった。
……だってさ、雪が降るような寒さの中、あんまり外出たくないじゃん。
もっとも、舞子まで来た時には既に雪は降っておらず、
陽が出ればそこそこ暖かさも感じた。
でも、風が冷たい。
海から吹き付ける風が、春はまだだと感じさせる。
俺たちは海風から逃れるように、博物館のような建物へと入った。
「橋の科学館」
1フロアしかない造りだが、面積は結構広い。
主に映像を中心とした展示施設を展開している。
「局長さん、こっちこっち。何か始まるみたいですよ〜!」
「わ〜かったから引っ張るな。何々? 3D映像か」
「あ、このサングラスみたいのをつけて観るんですね〜?」
「よし、せっかくだし観ていこうか」
映画は15分程度の短いもの。
内容は2種類あって、海をテーマにしたものと、橋をテーマにしたもの。
30分毎に交互に放映しているようで、
俺たちも時間を合わせて、両方の作品を鑑賞した。
「うーん、ここって、あんまり子どもは楽しくないかもしれないな」
「クソマジメな映像ばかりですものね〜。ちょっと大人向けかもしれませんね」
「あの橋の模型に風をあてるやつはちょっと面白かったけどな」
「あれだったら子どもさんも楽しめそうですね〜。
一定の時間にしかやれない上に、目立たないというのが最悪ですけど〜」
「ははは、違ぇねぇな」
1時間半ほど時間を費やした後、俺たちは科学館から外に出てきた。
「……さてと、次は展望台だな」
「風が冷たいですし、早く行きましょう〜」
俺たちは橋へと足を向けた。
つり橋にはワイヤーを繋いでおくアンカレイジというものがある。
そのアンカレイジの上が人の入れるような空間になっていて、そこが展望台として公開されていた。
軽食のとれるレストランもあって、かなり小綺麗な感じ。
そりゃあもう、夜にもなればラブラブカップルどもで溢れかえり、石を投げたくなること間違いなしだ。
リアル三●無双ってのも、オツなものがあるかもしれない。
もっとも、今はちょうどお昼の時間帯ということで、そんな輩は見受けられなかった。
不幸中の幸いというヤツかもしんない。
ぐ〜
俺のお腹も程よく空腹の雄たけびをあげている。
「ふぅ、もう昼か。ちょっと腹減ったな。おい、観雪、なんか食べようぜ……って、あれ? 観雪?」
ふと気がつくと、観雪がいない。
さっきまで俺の傍にいたはずだけど……いつの間にいなくなったんだ?
俺はもと来た道を戻る。
エレベーターホールまで行くと、そこには自動ドアを前に立ちすくむ観雪がいた。
何やら、ドアの外の様子をうかがっているように見える。
「……何だ? そのドアの向こうに何かあるのか?」
「わあああっっ! ……って、局長さんじゃないですか……あ〜、びっくりした」
俺の声にビックリする観雪。よくもまあ、これだけ元気に騒ぐもんである。
「珍しいな、観雪がそんなに驚くなんて」
それだけ意識を自動ドアの方に向けてたってことか。
俺も、そっちの方をよく見てみることにした。
「ん? なんだ? 通路?」
観雪の見ていた自動ドアのさらにその先に、なにやら通路らしきものが見えていた。
「あ、はい。この先、橋の道路の下に出られるみたいなんですよ。
言い換えれば海の真上です。ちょっと気になりません?」
どうやら、観雪はそれを見ていたらしい。
確かに、海の上に出られるのだから、気にならないと言えば嘘になるだろう。
「へぇ、そいつは確かに気になるな」
「ですよね〜♪」
「でも、寒そうだな」
「ですよね〜……」
大変正直でよろしい。
「うーむ、どうすっかな」
「…………」
寒さと好奇心を天秤にかけてみる。観雪は俺の答えをじっと待っているようだ、
…………。
ま、好奇心優先だよな。ここは。
「ま、ちょっと出るくらい大丈夫だろ。行ってみるか」
俺は心の中で出た結論をもとに、観雪にもちかけてみた。
「はい、じゃあお供します。一緒に行きましょう〜」
やっぱり観雪は元気だった。
ビュウウウウウウ…
風が吹き荒れる。
まっすぐ立っていられないほどの強風。
それも、雪が降るほどの冷たい風として押し寄せてくる。
耳のまわりが、痛い。
「ううううう……さ、寒すぎますよぉぉ……」
ガタガタブルブル
観雪は凍死しそうな勢いで震えている。
「こりゃあキツイな…さっさと奥まで行って戻るか」
「はいいい……」
もっとも、寒いのは俺も同じだった。じっとしてるのは辛いので、とりあえず動くことにする。
「あの先がちょっとした広場になってるみたいだし、あそこまで行って戻ろう」
「はいぃぃ……」
観雪は寒いのが苦手なのだと、後で苦笑交じりに語っていた。
広場まではすぐだった。
ここにはちょっとしたベンチもあって、夏場なんかは風が気持ち良さそうだ。
床の一部はアクリルか何かでできていて、下が見えるようになっている。
つまり、遥か下に海が見える。吸い込まれそうな感覚である。
高所恐怖症の人には、ちょっと辛いかもしれないと思った。
さすがに時期が時期のせいか、あたりに人気はない。
空虚な雰囲気が、余計に寒々しさを感じさせていた。
「そういえば、これと同じようなのが鳴門大橋にもあったな〜」
「なるとってドリキャ……」
観雪、それ、お約束すぎ。
「ゲームじゃありません。ほら、渦潮が見られるところだよ」
「わかってますよ〜。徳島のやつですよね」
「知ッテルナラ、最初カラ、イエ」
「あう〜、ぐりぐりしないでくださぁぁぃ。痛いです〜」
「ふん、そういうタチの悪い冗談を言うヤツは、海に叩き落してやる」
「え〜ん、局長さんの方がタチ悪いですよ〜」
相変わらず冷たい風が吹きつけ、身体は冷たかった。
でも、旅先でのこういうやりとりは、とても心を温かくさせるもの。
いつの間にか、俺たちは寒さをあまり感じなくなっていた。
「さて、そろそろ行くぞ。次の予定もあるしな」
「あ、そっか。そろそろ大阪に戻らないと“あの方”に会えませんね〜」
「ああ……いっつもチコクしてるからな。たまには時間に間に合うように行かないと、そのうち殺される」
「そんなこと言ってると、あとでヒドイ目に合いますよ〜」
「うぐ、み、観雪、今のはオフレコだ! オフレコ〜!」
「うふふ、ほらほら行きますよ〜。局長さん」
旅に出ると、水を得た魚のように元気になる人がいる。
旅に出ても疲れるだけだと思う人には、その感覚はよくわからないのかもしれない。
でも、旅には不思議な魔力がある。人の心を温かくさせる何かが。
俺は観雪と歩く道すがら、そんなことを考えていた。
<其の3 あとがき>
え〜、以前出したものからだいぶ修正加えました。
なるべく本当の旅行に近い内容に書き換えましたので。
雪が降ったり寒かったりしたのも、全て実話です。
んで、最後にちらっとでてきた「あの方」。
誰かはヒミツです。ご本人様が「ちゃんと書け!」と申されれば話は別ですが(笑)。
まぁ、この旅日記の本筋とはあまり関係ないので。
とある友人に会って遊んだんだと、そう思ってくだされば十分です。
さて、次回は、其の4「京都ぶらぶら日記」をお届けします。お楽しみに(?)
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