●2003年03月 『あの土地へ…再び』編

其の5:いざ太古の島へ

 2003年3月11日。早朝。

俺は3日間の関西観光を終え、一度自宅へと帰還した。

「ふう」

この3日間に届いた郵便物やメールに目を通す。
たかだか3日間。されど3日間。

しょーもないモノも多かったが、中にはわざわざこれを確認するために
一時帰還したと言っても過言ではないくらいの重要な通知も混ざっていた。

――卒業式のご案内

「……やれやれ。何とか卒業は決まったか……」

卒業通知。ウチではそれは、同時に卒業式の日程や場所を伝える案内として届けられる。
最後に大学へ行ってから、早や1ヵ月半。
ようやく決まった卒業に、俺はやや安堵の気持ちを抱いていた。

「……どうやら、あいつらも卒業は決まったみてぇだな」

メールボックスには通知が届いたことを知らせる仲間からのメールが数点。
中には「奇跡だ!」などと叫んでるヤツもいた。
……確かこいつ、1万字にも満たない字数で提出したんだっけ……よく単位取れたな。

俺はメールを見ながら、提出日のドタバタした状況を思い出していた。
無事に提出終えて、爽やかな表情を浮かべているヤツ。
ギリギリまで粘って、もう少ししっかりした形にしようと焦っているヤツ。
完全に諦めて、次の1年間の生活を考えてるヤツ。
いろんなヤツが行き交い、過ぎ去っていったあの日。
今となっては、ただ記憶に残るだけの、何ということもない思い出。

「ま、何にせよ、卒業決めたモノ勝ちってヤツか。
俺も無事に決まったし、これで今日からの屋久島旅行を思う存分楽しめるぜ」

いろんなヤツがいた。
でも、提出して、卒業を勝ち取ってしまえば、どんなヤツだって勝者。
卒論の提出なんて、実質的にはそんなもの。

「ふん、これから屋久島へ向かう面子は皆、勝者ってわけだ。
勝利の美酒にでも酔いしれながら旅を楽しみますかね」

いつしか俺の心は、卒論提出日のことではなく、旅のことを考えていた。
過ぎ去った過去ではなく、これからやってくる未来のことを――。

「うっしゃあ。準備準備。買いに行かなきゃいかんものもあるし、さっさとやりますかねー」

俺はPCをシャットダウンして、立ち上がった。


 2003年3月11日。夜。


「よ。お待たせ〜。」

日付が変わる直前の、夜の横浜駅。

数日前、観雪と関西に向けて出発する時に使い、
今朝、一時帰還する時にも使ったこの駅に、俺は三たびやって来ていた。

もっとも、今回はそこにいる人数が違う。
集合場所には既に5人の顔ぶれが集まっていた。
俺を含めると6人。これだけ集まると、結構賑やかなカンジがする。

「オーイエー。『ながら』で過ごす夜のお供に、酒と『鉄道フ○ン』買ってきたっす」

集合場所に到着して、すぐに俺に話し掛けてきたのは、俺のバカ友代表にして鉄道オタク。
かつエロエロ大魔人でもあるという伝説級の存在感を放つ「師匠」(通称)だ。
彼は、自宅の押入れには鉄道雑誌とエロビデオしか入ってないというフィーバーぶりを見せる漢(おとこ)。
俺も、この2点に関してだけは彼のことを「師匠」だと思っている。とても勝てる気がしない。
チャームポイントは1回剃っただけで刃がボロボロになってしまうというくらい濃いヒゲで、
この点でも、やはり無敵に思えてくるから大したものである。

「師匠さん、相変わらず鉄道好きですね。俺も気動車勉強してきましたよ。」

その師匠に話し掛けているのは、俺の旅にはかならずと言っていい程ついて来る、
名パートナー的存在の部長。
最近は「気動車マニア」を自称していて、今回の旅でも、気動車に乗るのを楽しみにしているらしかった。
コーヒーショップは『スタバ』ではなく『ドトール』でないとダメという、ミョーなこだわりをもった人物でもある。

「お、総長。早速いつものエロメールっすか。旅行前からしょうもないっスねぇ〜」

「おいおい、エロじゃねーっての」

師匠にからかわれているのが桃色大魔王こと総長。
エロ熊とか桃色熊想いとか、言いたい放題言われまくりな桃色の血潮である。
彼はふと気がつくとメールしていることが多く、みんなはエロメールだと信じて疑わない。
我らが女性チームの面々も、既に諦めていた。

「ふにゃ……むにゃ……………………そこでBダッシュ……」

んで、その近くで立ったまま爆眠。しかも夢の中で「スーパー○リオ」をプレイ中という離れ業を見せているのは、
ご存知 観雪。今朝まで一緒に関西旅行をしてきた、その人である。
こいつについては特に説明はいらないだろう。これまでの旅日記を見てくれればいい。

「観雪……このバカにつきあってたせいで疲れてるのはわかるけど、立ったまま寝るのはどーかと思うよ。
ね、もーちょい待てば電車来るから、それまで我慢できない?」

そんな観雪に話し掛けているのは、同じく「D-COSMOS」アシスタントの皐。
……「バカ」って何だ。相変わらず失礼なヤツだな。礼儀も何もあったもんじゃない。
こいつ、顔はいい、スタイルもいい、家事全般もオッケーでアタマもそこそこいいんだが。
……性格と攻撃力に問題がありまくる。
俺もこいつと話してて、ぶっとばされたこと数百回。ヘコまされたこと数千回!
こいつほどの上玉に恋人ができないのはそれが原因だと思うのだが、
それは本人も気にしてるようなのでオフレコである。

「まー、いいじゃねぇか。観雪って寝たままでも歩けるから、そのまま列車に乗せちゃえば問題ないって」

そして旅のメンバー最後を飾るのは、俺。「D-COSMOS」局長、ddtdd8。
今回はこの、何とも濃いメンバー構成で、九州、そして屋久島へと旅立っていくことになっていた。
そう。今回の目的地は屋久島! 縄文杉!
太古の自然が残る島で、世界最大級の古代杉を見るという、壮大な目的をもった旅。
それがこの旅行のテーマであった。

俺は以前、師匠と共に屋久島に行ったことがあった。
その時は時間的都合などもあって、縄文杉を見に行くことは出来ず、いつか挑戦したいと考えていた。

そんな折、いよいよ卒業も迫ってきた時期に、卒業旅行でも行くか、という話が出て
それがあれよあれよという間に、縄文杉挑戦ツアーへとなっていったのであった。

「しっかし、それにしても人多いよねーっ。
もうそろそろ0時だよ? こんな時間にこれだけの人が駅にいるなんて、なんか変な感じ」

周囲を見回しながらしみじみと呟く皐。
ちなみに、こいつはそのツアーを仕立て上げた張本人の1人だ。
卒業旅行って意味じゃ全く関係ない人物なのに、ここにいるのにはそういう理由がある。
ついでに言うと、観雪も同罪である。

「そりゃまあ、残業だの何だので、遅くなる人もいっぱいいるだろう」

変なこと言ってもしょうがないので、俺は素直に答えてみた。

「オーイエー。こういうの見てると、就職したくなくなるよね」

そんな俺の言葉に、師匠も素直な感想を言ってくる。

「ま、師匠の場合は『電○でGo!』やる時間がなくなるのが心配なだけだろう。
別に、睡眠時間が減るからとか、そういう理由じゃあないよな〜」

「……HAHAHA。……当たり前じゃないっスかコンチクショー。」

師匠、ノリのよさはピカイチ。
こういうキャラはありがたい存在だと思う。

やはり、大人数での旅は、一人や少人数での旅と違って、
賑やかな面白さがある。
ワイワイやってるだけで楽しいし、旅先でいろんなことに出会って、更に面白くなる。
正の相乗効果。こういう旅は盛り上がる。
みんな都合があるから、なかなかこういうのはできないけど、
やっぱこういうのも捨てがたいよな。そう思った。

今日はすんなりと発車した「ムーンライトながら」。
俺たち6人を乗せ、夜の東海道をひた走る。向かうは名古屋、そして、大垣。

一度途切れた俺たちの旅は再び始まろうとしていた。

いざ、太古の島へ。

はしゃぎ、騒いでいた皆も、いつしか眠りについていた。
その夢の中で見るのは…過去か…それとも、これからやってくる旅への思いか。
皆の寝顔は、とても安らかなものだった。

長く、そして短い日々が…こうして再び幕を開けた。


<其の5 あとがき>
というわけで、今回は一回インターバル的な内容を書いてみました。
こういう完全作り話は、簡略的に書こうとすると難しいです。
元から短編として作ってりゃ、楽なんですけどねー。

ま、何はともあれ、次回からは屋久島編いきます。
写真なんかもまた公開していくので、お楽しみに。

それでは次回、其の6「うどんラッシュ」。お楽しみに(?)

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