●2003年03月 『あの土地へ…再び』編

其の7:レッツ・ティボリ

 2003年3月13日。午前アバウト8時。

「ん〜、美味い。最高っ!」

俺と観雪はホテルのレストランで、朝食をとっていた。
ここの朝食は、ありがちだがバイキング形式で、好きなものをとれるタイプである。
品数が多いわけじゃないが、味はそこそこ悪くない。
俺は、野菜が少なくなりがちな旅行中だけに、フレッシュなサラダを多めにチョイス。
2、3種類ほどあるジュース関係が、これまた絶品であった。

「んぐんぐ……プハー。最高」

「…………」

「いや〜、やっぱり朝はコレに限るね」

満面の笑顔が思わず浮かぶ。
いい食生活は精神的ゆとり・幸福を生む。このレストランでの朝食は、それを思い出させてくれる。

「ここのホテルの朝食は、これがあるからすばらしいんだよなー」

「…………」

美味いものを食べると、思わず饒舌になってしまう人がいるが、その気持ちも今ならよくわかる。
1人で食ってるならまだしも、向かいに観雪がいるという状況で黙っていろというのが無理な話である。
それくらい、俺は今、感激しているのである。

「うーむ、他のホテルもメニューに関してもうちょっと見習うべきところが……」

なおも感想を語り続けようとしたその時――

「あ、あの〜……局長さん、ちょっといいですか〜?」

それまで向かいで黙って食べていた観雪が、俺の言葉をさえぎって話し掛けてきた。

「ん? ……ああ、なんかブツブツ言いながら飲食する不審人物っぽくなってたかな? スマンスマン」

ガラにもなく素直に反省。これも豊かな食生活がなせる技の一つである。
幸せな時は何でも大目に見てしまう。そういうものなのである。

「あ、えっと、それはいいんですけど〜。私もここの朝食美味しいと思いますし〜」

ちょっとすまなそうに答えた俺に、観雪は首を横に振って否定した。

「ん、そーか? ……んじゃ、何だ? 何か言いたいことあるんじゃないのか?」

「はぁ。そのですねぇ〜」

すぐに、ちょっと言いにくそうな表情……いや、違う。
何か、図りかねたような表情を浮かべ、言葉を濁す。

「何だよ。遠慮すんなって。俺とお前の仲じゃないか」

俺はそんな観雪に、相変わらずの笑顔で優しく続きを促した。
今の俺は菩薩なり仏なり、そんな表現が似合うくらい優しさに満ちている。
うむうむ、食のパワー万歳。

「あ、はぁ。……ではお聞きしますけど……あのぅ」

俺の言葉に気を良くしたのか、観雪が俺に問い掛けてきた。

「んむ。何でも聞きたまへ」

しかし、飛んできたのは予想外の質問。

「……えっと……局長さん、それ、何杯目ですか〜?」

「……へ?」

……何ですと?

「ですから、そのトマトジュースですよ〜。それ、何杯目でしたっけ?」

トマトジュース? 
なんだそんなことか。別に大したことではなかろうに。

「うん? そんな、大して飲んでないぞ」

俺は正直に答えた。

「……そうでしたっけ?」

そりゃそうだ。一度に飲める量など、そんなに多いものじゃない。
それに加えて、朝はイマイチ食が進まないモノである。これで大量に飲めれば胃がおかしい。

「そうだよ。普通だよ。普通」

疑問を抱えた表情の観雪に、俺は普通だと言い切る。
……が、相変わらず観雪の表情は冴えない。

「とても私にはそう思えないんですけど〜」

「そうか?」

逆に問い掛ける俺に、観雪は答える。

「そうですよ〜。確かもう10杯近く飲んでませんでしたっけ〜?」

「うむ。正しくは9杯目だけど……それが何か?」

……何かおかしいかな?

「…………」

「…? 観雪?」

「…………
…………飲みすぎですよ〜!!

観雪渾身のツッコミ炸裂。
もっとも、観雪なんで迫力には欠けるけど。
でも、観雪がここまでやるのはなかなか珍しい。よく成長したな、観雪。

……まぁ、それはさておき。

「……普通じゃないの?」

俺は率直に思ったことを口にした。


「普通、どう考えてもありえませんよ〜


「や、俺はこれが普通なんだが……」

「いえ、局長さんがそれをお好きだということは知ってますけど、
そんなガッパンガッパン飲みまくるとは思ってませんでしたので〜」

「俺はこれが普通なんだよ。観雪、もうちっと俺の生態学について勉強することだな」

全くもって意味不明。

「はぁ、精進します〜」

しかし観雪は納得していた。

その後、俺たちはトマトジュースの摂取は人として正しいかどうかについて議論した。
結局、「青汁よりはよっぽどマシ」という結論におちつくまで、30分の時間を要した。


快速サンライナー。これで岡山―倉敷間を移動。


 「ん〜、倉敷とうつき〜。」

「とうつき〜v」

俺たち一行は朝食の後、全員集合して出発し、倉敷へとやって来た。
岡山―倉敷間は、「快速サンライナー」で一駅。近いものである。

「皐……どこぞのゲーム、ネタに使わなくていいから。
それと観雪、復唱してないでさっさと改札出てくれ。後ろつかえてる」

何やらハイテンションな連中に、軽く指示をだす。

「あ、そうですね〜。じゃあ、お先に〜」

「ボク、改札通る時『お先に』とか断る人、初めて見たヨ」

「まー、観雪って、ちょっと変わってるところあるからねー」

「そういう皐も、『変』って意味じゃ負けてないけどな」

「……何か言った?」

「いえ、何も」

今日もみんな、実にいつも通りだった。


倉敷チボリ公園。チボリ公園。倉敷駅から見た遠景。
このあたりでは最も有名と言っても過言ではない遊園地である。
デンマークあたりの西洋風町並みを見せる
テーマパークという要素がむしろ強いが、
所詮俺たち(アトラクション乗りまくりタイプ)にしてみれば、
遊園地に変わりはない。

「おー、ここがティボリっすか。駅から近くていいねー」

俺たちの今日の予定は、このチボリ公園で遊んで、
夕方、広島へ向かうことになっていた。

「さてと……どーせいろいろ乗るだろうからパスポートでいいよな?」

「そーだね。えっと、4000円くらいだっけ?」

ゲート前。チケット販売ブースにつけられた料金表を見ながら、算段を立てる俺と皐。

「結構高いよな〜。まぁ、もとをとってやるだけの自信はあるけどな」

「あたしも乗りたい派だからねー。局長、ジェットコースター乗りまくろーよ」

「おう、いいねぇ。望むところ――」

俺と皐がアトラクションネタで盛り上がりかけたその時――

「イエーーーーーーーーース!!」

師匠があげたでっけぇ声が、俺たちの会話を止めた。

「……な、何だ? 師匠、何かあったのか?」

「ヲウ、これ見てくれヨ! ナイス! ナイス! イエー!」

「??」

師匠の指差す先には1枚の小さな張り紙。

『ほにゃらら周年記念キャンペーンにつき、パスポート、入場券は半額になっております』

…………。

…………。

…………。

…マ、マジっすか?!

「半額って…本当に? 何か他に条件があるとか、実は適用期間が違ってるとかない?」

皐も俺の横から張り紙を覗き込んでいた。
さすがに信じられないのか、ミョーに細かい確認なんぞをしている。
でも。

「うーむ、さすがに50%OFFってのは聞いたことないよなぁ」

皐の気持ちもわからんでもない。
俺も「半額」というのは、俄かには信じられなかった。

「俺も初めて見ましたよ。こんなありえないの」

今や相手にされない解説役で御馴染みとなった部長も、やはり信じられないといった様子だ。

「まぁまぁ、とにかくどのみち入るんですし、実際に買ってみればわかることですよ〜v」

「そうそう。俺もメール打ち終わったし、さっさと行こう」

一方、我がチームのお気楽担当2名は、相変わらずノーテンキだった。
てゆーか、そのうち一人はエロメールさえ打てればあとはどーでも良かった。

「そうそう。善は急げと言うしネ」

……訂正。お気楽担当3名。エロ2名。

「師匠。さすがに言いこと言うな〜。伊達に鉄道オタクじゃないな、マジで」

「や、それ関係ないし」

総長はもう絶好調だ。
既に、しっかり半額になった金額分を用意してブースに向かおうとしている。
……順応が早いと言うか何と言うか。
朝っぱらからエロメールが打てて、気分が良いのかもしれない。

「まー、でも、観雪たちの言う通りね。ここでダラダラしててもしょーがないし、そろそろ入りましょーか。
ここにいたって、半額の恩恵は受けられないんだし」

ま、そりゃそーだ。
皐の言葉に頷く全員。

「……ま、半額ですむならそれに越したことはないしね」

俺も、それに賛同した。

「じゃ、そういうことで行きましょうか」

その、皐の言葉を皮切りに、俺たちはチケットブースへと移動した。
結局、パスポートは本当に半額。
予想外のお得キャンペーンに、ありがたい気持ちでいっぱいだった。



「……うーん、大したことなさそうだと思ってたけど、スパイラルとか結構良かったな」

「そーそー。あの迫ってくるカンジが良かったわね。後でもー1回乗ろーよ」

遊園地といえばジェットコースターである。
苦手と言う人も多々いるアトラクションではあるが、やはり遊園地の花形と言えば、これに相違ない。
俺たちも早速、ジェットコースターに乗り込み、感想を語り合っていた。

「を、いいな。今回は先頭だったし、次は後ろの方にでも乗ってみようか」

「あ、それ、いーわね。局長、約束だかんねー。忘れないでよ?」

俺も皐もこういった乗り物は大好きである。
たとえ、どこぞの夢と魔法の国へ行ったとしても、スプラッシュなんちゃらとか、ビッグ雷山とかに乗るタイプだ。
もちろん大阪の方の映画遊園地へ行くなら、ジュラシックなんちゃらである。
こういった乗り物に乗ると、自ずと会話が弾むから面白い。チェケナウ。

他の面々も、どうやらこういうのが苦手という人がいないらしく、全員楽しげな表情である。
観雪はボケーっとしてるし、部長はスピード狂気味、師匠は乗り物大好きときている。
総長に至ってはエロメール用のネタが増えると言って大張り切りである。
遊園地はそれなりに人を選ぶが、こういうメンツだと、なかなか盛り上がって良い。

「さぁて、次は何乗りますかネ?」

そんな、ジェットコースター話で盛り上がる俺たちに次を促す師匠。部長がそれに反応する。

「とりあえず適当に回りながら、手当たり次第に乗っていきませんか?」

そんなにアトラクションも多くないし、と。

我がチームの地味担当であるこの2人も、何だかんだでノリノリである。
この6人パーティーの先頭を切って、奥地へと進んでいた。

「しっかし、それにしても……人いないですねぇ……」

ふいにそんなことを呟く観雪。
まぁ、確かに。平日とはいえ、園内は閑散。閑古鳥が鳴きそうな勢いであった。

「そうだな。休日になればもうちっと来るんだろうけど、この状態で半額にして大丈夫なのかと思っちまうな」

とりあえず反応する俺。

「ま、でもいいじゃん。その分待ち時間とか無しで回れるんだし!」

皐は楽しめればそれで良いといったカンジである。
まぁ、こういう人の方が、素直に楽しめていいのかもしれない。

「まーな。俺たちとしてはありがたいってとこ――」

その時だった。

俺の視界にアレが飛び込んできたのは。

「……何だ? あれ……」

見つめる先にはメリーゴーランド。
どこの遊園地に行っても普通に置いてある、御馴染みのアトラクション。
だが。
……ものすごい違和感がそこにはあった。

ぱんだ

「……パンダ?」

「……ああ……パンダ……だな」

パンダである。
メリーゴーランドにパンダ。
まぁ、あり得ない話ではないかもしれないが、何かが間違っているような気がしてならない。

「パンダって、乗り物だったっけ……?」

「……いや、そこはかとなく、違うような気がする……」

背中に鞍をつけたパンダ。意外に似合っているような気もするが、やはり何か大きな間違いであるような気がしてならない。
しかもこのパンダ、微妙にカメラ目線である。
自己陶酔型の性格なのであろうか。

「……レッツ」

「ん?」

俺たちはしばらく固まったままだったが、しばらくして師匠が、その沈黙を破った。

「レッツ。レッツ・パンダ」

……気がつくと、師匠はゲートの方に移動していた。

…………。

…………。

……乗る気マンマンだよ、こいつ(汗)。

しきりに「レッツ」を繰返し、同志を募っている師匠。しかし、もちろん誰もそんな痛い行動は取る気になれない。
しかし、勇者はいるものである。エロメールを送信完了した総長が、同志として参加してしまった。
結局、むさい兄ちゃん2人で、かわいいおチビちゃんたちと一緒にメルヘンの世界へ送り込まれていったのである。
しかもパンダセット。もはや夢もへったくれもあったもんじゃなかった。
この模様は写真・及び動画に記録されているが、本人の名誉のために、ここでの紹介は割愛する。
ただ……一言だけ。

すさまじく痛かった

とだけ述べておく。オーイエー。



その後も、かなり盛り上がった1日を過ごした。チボリ公園の謎のおっさん像
ちなみに、師匠はこの後も、
巨大なコアラさんとチボリの森へ出発しちゃったり、
チボリ鉄道の先頭車両(?)で「制限25km/h。進行」とか叫んでたり、
痛い行動連発であった。

もちろん、俺たちが他人のふりをしていたのは言うまでもない。
総長はエロメールである。

ガタン、ガタタン……

部長がバケツ入りのキャラメルポップコーンを購入してから、
チボリ公園を脱出した俺たちは、
その足で「山陽シティライナー」に乗り込み広島を目指していた。

倉敷から広島までは数時間ほどかかる。結構な長旅である。
もっとも、みんな疲れが出ていたらしく、思いっきりぐっすり寝込んでいた。
起きていれば時間の流れを感じるものだが、寝ていれば関係ない。
ま、ある意味利口な行動ではある。

福山、三原とそこそこ大きな街を通り抜け、列車は西へとひた走る。
近くに座っていたおっさんと車掌さんの話では、
明日小野田支線でサヨナラ運転があるとかで、そういう系統の人もちらほら乗っているようである。
ちなみに、師匠氏曰く「本当は俺も行きたかった」そうで、鉄には重要なイベントであるようだ。

列車は白市を過ぎ、広島へ向かう人がだいぶ乗り込んできた。
あとわずかで数時間の列車移動が終る。そして、再びあの地へ――。

俺は再び車窓に目を移した。
流れゆく景色は、いつしか夕暮れに染まっていた。
緑の多かった景色はいつしか家並みに変わり――
やがて夕暮れの中、数年ぶりにみる広島の町が、目前に迫ってきていた。

どっかの駅で停車していた機関車を何となく撮影。特に意味はありません。ハイ。


<其の7 あとがき>
つーわけで、「レッツ・ティボリ」です。前回の更新からちょっと空いてしまいました。
申し訳ないっす。

最後、ちょっとしり切れトンボっぽいカンジで終わってますけど、別にこの後、特に書くことないんですよ。
ホテル行って寝て終わりですので。
ホテルに関する記述は、次回分でまとめて書くつもりでいますので、今回は割愛です。
ご了承を。

それでは次回、其の8「いつか行った場所」。お楽しみに(?)

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