
●2003年03月 『あの土地へ…再び』編
其の8:いつか行った場所
2003年3月14日
何やら世間では「愛のお返し」なる宣伝文句をよく見かける今日この頃。
一体なんのことやら。今日はただの平日。ただの金曜日。
週間少年チャンピオンの発売日であります。
「局長〜。お返しぷりーづ」
……そして我々一行は宮島へ向かう日。
久々に美味い牡蠣が食べられるかと思うと、思わず顔がにやけてしまう。
「おいコラ局長、無視すんな」
……そうそう、穴子も美味いんだよな。今日の昼は焼き牡蠣と穴子重でリッチにいきますか。
くくぅ、最高だね、おとっつぁん(誰)。
「おーい、局長〜。聞いてる?」
聞いてない。
「あたしアレでいいからさ、買ってよ〜。ぷり〜づ〜」
皐が何かを指差し、俺の服をつかんで引っ張っていた。
……はぁ。しつこい。
皐がしつこいのにはわけがあった。
今日、世間はホワイトデーなる日らしく、チョコをばらまいた女たちが倍返し……もとい、お返しをせびる一日なのである。
そうじゃない人もいるかもしれないが、うちのアシスタントどもにしてみれば、そんなものである。
まぁ、確かに先月、うちのアシスタントどもはチョコをくれた。
観雪に至っては、わざわざトリュフなんぞを作って配っていた。
これに対しては相応のお返しをせねばなるまいと思い、ちゃんと用意はしているのだが。
「皐、お前が1000円クラスの商品をせびるとはこれいかに?」
問題はここなのである。
「だって先月あげたし」
ああ、確かに貰った。貰ったけどよ。
……たまたまオヤツに買っただけの『お徳用お菓子詰め合わせ100円』に入ってたチョコ1個でこの値段は法外だろ。
「ちっちっち、局長、江戸っ子は人情ってもんが大事なのよ」
「や、俺ハマっ子だし」
東京と横浜は近いようで遠い。ほんの少し、雰囲気と言うか文化が違う。
「それに全く人情関係ないし」
「いや、そこはそれ。言葉のあやというか何と言うか。とにかくぷりーづ。あげたのは事実だし」
「ったく……じゃあコレでガマンしろ。俺様お気に入りの飴だ」
本当は一個で十分かと思ったが、心の広い俺様は1本丸ごとくれてやることにした。
「……これ、何?」
「何って、飴だよ飴。見てわからんか」
「や、それはわかるけど、『鼻トールメントール』って……」
「花粉の多いこの時期、そいつ舐めてるとかなり調子良いんだよ。オススメ」
「あたし花粉症じゃないし」
「贅沢言うな。俺にとっては貴重な1本なんだぞ」
「や、でも、ホラ、やっぱ形だけでももうちょっとこう……ねぇ?」
「お前が言える立場にあるのか?」
「あ、あたしだからいーのよ」
無茶な理論である。
「ま、とにかくそいつでガマンしろ。ああいうマトモなモンが欲しかったら、観雪を見習うことだな」
俺はそう言って、皐との話を切り上げた。
皐はその後しばらくぶーたれていたが、自業自得以外の何物でもなかった。
「おー。これがグリーンムーバー。素晴らしいネ」
「すごい……超低床ですよ。LRT最高ですね!」
電車ヲタクと気動車マニアが騒いでいる。
広電、宮島行き列車の車内。
平日の朝ということもあって、
駅と反対方向に向かう列車はかなり空いていた。
俺たちも先頭車両の眺めがいい席を陣取っているのだが。
「師匠……いくらなんでも写真取りすぎじゃないか?」
さっきからずっと席を立ってカメラを構えている師匠。
いくら人が少ないとは言え、正直、ちょっと存在が恥ずかしい。
「違うヨ。写真じゃなくて走行シーンのムービーを撮ってるんだヨ」
彼のデジカメはムービー撮影機能付きだった。
「あの〜……余計に恥ずかしいと思うんですけど……」
観雪の言い分はもっともだった。
「甘い、甘いヨみんな。総長を見なさい。周囲がどうあろうが平然とエロメールに勤しむ彼の姿。
これこそ真の漢。理想の姿だヨ」
「エロメールじゃないって」
「あの〜……私と皐さんは女なんですけど〜」
言われた総長と、観雪が突っ込む。
「まぁ、漢ってのは言葉のアヤだけどネ。気にしない気にしない。で、ボクのスタイルも気にしない」
しかし、師匠はそんなもん知ったこっちゃなかった。
「気にしますよ〜……はう」
そして総長の直訴は完全に無視であった。

宮島口から松大観光船で宮島へ渡る。
宮島航路はJR汽船と松大観光船の2社が運航しているのだが、
青春18キップや周遊キップのゾーン券で乗るのであれば、
別にキップを買わなくても良いJR汽船がオトク。
そうでなければ広電系列の松大観光船がオススメである。
理由は簡単。同じ値段でも船がいいから。
写真のようなグループ席もあって、かなり居心地がいい。
わずか10分であっても、
値段が同じならグレードの高い方が良いに決まっている。
そして宮島へ。
「……なんだか懐かしいネ」
「師匠と総長は3年ぶりか? あの時は楽しかったな」
「そうそう。総長が行方不明になったりしたネ」
「崖から落ちた人もいたような」
「いたネ! いたいた。誰だったかな〜」
「2人とも……死にたいか?」
宮島。そこは懐かしい思い出の地であった。
俺たちが話しているのは3年前、大学1年の最後に広島で実習をやった時のことである。
俺や師匠、総長の他、計6名で宮島を調査したのだが、
総長が行方不明になったり、総長が眼鏡を無くしたり、予定時間に遅れまくったり、
俺が山の上で崖から転落したり(実話)、それはもう大変なことがたくさん。
台風で壊れた厳島神社や五重塔を生で見れたり、カキや穴子に舌鼓をうったりと良いこともあったのだが、
万事オッケーとはいかないものであった。

「あ、鹿戸あった。懐かしいですね」
一方の部長。彼にとっても懐かしい土地である。
高校の修学旅行で同じ班になり、初日に来たのがここ宮島。
その後、大学2年の夏にも足を運んだことがあり、
これで来るのは3回目であった。
(注:「鹿戸」とは、公衆便所の中に鹿が入ってこないように、
入口につけられた戸のこと。 右の写真参照→)
今や完全に修復された厳島神社。
結婚式をやっていた。
厳島神社で、というのはなかなか思い出になりそうである。
「ステキですね〜」
観雪、表情がうっとりモード。完全にイッちゃってる。
「教会でドレス、っていうのもいいけど、こういうのもいいわよね」
皐も珍しく乙女チックに発言。
言うと殺されるから言わないけど。

境内を一通り見てまわり、来るたびに引いてるおみくじにチャレンジ。
これまでは2回とも凶。そして……
「あはははは、局長、また凶だしてる〜」
「うるせぇ、そういう皐は何なんだよ?!」
「あたし? ふっふ〜ん、当然大吉。ま、日頃の行いが違うもんねー。局長とは」
「くっ……観雪は?」
「私は中吉ですよ〜。局長さん、残念でしたね〜」
敗北。
しかし、厳島神社でおみくじ引くと、なぜこうも凶ばかり出るのだろうか。
いずれ再チャレンジした時には今度こそ……!
胸に闘志を秘める俺であった。
「んまい……美味しい……最高〜!」
「いや〜、やはりコレだネ。宮島来たら焼き牡蠣。素晴らしいネ」
昼飯。
商店街の一軒。店先で美味しそうな牡蠣を焼いていた1軒に足を踏み入れる。
生牡蠣と焼き牡蠣、それに穴子重を頼む。贅沢というなかれ、ここで贅沢しなかったらそれ自体が大間違いである。

まず最初に出てきたのは生。
広島の牡蠣は2〜3月がシーズン。
生で食べて十分美味しい。
薬味とレモン汁が牡蠣にあっていて絶品。
次に焼き牡蠣。
良い牡蠣は、そのまま殻ごと焼いたのが一番美味いのである。
レモン汁をかけてツルツルっと……
「ああ、幸せです〜」
観雪、絶叫。いや、これが本当にうまいのである。
2〜3月に宮島へ行ったら、ぜひチャレンジしていただきたい。
んで最後に穴子重。これもんまい。
「そういえば、前に来た時も焼き牡蠣と穴子食べたよネ? この店だったっけ?」
「んー、違うんじゃない? 確かあれは座敷で食べたような」
食い終わった総長と師匠が思い出トークに勤しむ。
「や、ここにも来たよ。でも、ここでは焼き牡蠣も穴子も食べなかったんだよ。
2日目に別のところで食べたんだよな。ここでは……牡蠣丼かなにか食べたんじゃなかったっけ?」
俺もややぼんやりとした記憶で参戦する。
「ああ、そうだったそうだった。ここは確か某人が生牡蠣を一人で食ってやがったんだったネ」
某人というのは、当時同じ班で調査していた人物のことである。
「そうそう。前の日に『21』泊まって金が浮いたから、とか何とか」
(注:『21』とは広島の某ビジネスホテルのこと。安いが、その分部屋の狭さは特筆に価する(爆))
美味いものを食べると会話もなごむものである。
食べるのが遅い観雪を待って、俺たちは店を出るまでいろいろ喋っていた。
宮島で昼を食べた後、俺たちは船で戻り、
広電に乗って江波までやって来ていた。
江波山気象館。
あまり知られてはいないが、原爆を受けた被爆遺跡の1つである。
かつては気象台だったが、
原爆ドームと違って建物がしっかり残っているので、
現在は気象関係の展示を集めた施設として生まれ変わっている。
入館料は100円。安い。
「局長、今日は休館じゃないよネ?」
「そういや、師匠は前に来た時休館だったんだっけ?」
「あの時は間違えて江波皿山に登っちゃうし、
その後こっちに来たら休館だし、踏んだり蹴ったりだったネ」
師匠は遠い目をして溜息をついた。
江波皿山というのは、江波にあるもうひとつの小高い丘である。
広電の江波電停から見えるので、道をしっかり調べていないとついついこっちに行ってしまうことがある。
ある意味、天然の罠みたいなものか。
「ま、休館は月曜みたいだから今日は大丈夫だ。心配せんで良いって」
「なんか、ここまで来るのが長く感じたネ」
入館まで足掛け3年。確かに長い。
俺たちは早速館内に入った。
館内は基本的に気象関係の展示物が中心。
映像ブースでは枕崎台風災害に関する映像もあったりして、
大学1年の時に「空白の天気図」という書物を読まされた
俺や師匠たちには大変興味深い。
屋上にも上れるようになっていて、
小高い江波山からの眺めはなかなかのものである。
そして。
「へ〜。これ窓ガラスが刺さってるんだ?」
「原爆災害当時の様子を残す、貴重な歴史資料ってヤツだな。
皐、あっちの窓も見て来いよ。
窓枠が原爆の熱でひん曲がったままになってるから」
「へ? あ、すご。本当にぐねっとしてる」
先にも書いたが、ここは被爆遺跡。
直に目で見て触れられるところに、原爆被害の面影が残っているところは貴重である。
1階では実験コーナーみたいなものがあった。
『シャボン玉に入ってみよう』みたいなものとか、どれくらいシャボン玉を伸ばせるか、とか。
子どもたちに混じって、ついつい遊んでしまう俺たち。
楽しいんだよね、こういうの。ほぼ時間いっぱいまで遊んでいた。

「んじゃ、かんぱ〜い」
「「かんぱ〜い」」
2泊3日を過ごした広島。
その最後の夕食はやはりこれだろうということで、紙屋町界隈でお好み焼きにビール。
いやはや、んまいものである。
「今日はいろいろ食べたねー。ああ……太るのが怖いと思いつつ」
皐はんなこと言ってるが、こいつは元々大飯喰らいだから気にすることは何もない。
「うまいものを食べて、LRTにも乗って、素晴らしい一日だったヨ」
師匠も続く。最も、彼の場合は『うまいもの』より『LRT』の方が重要であったが。
他のみんなも、ご満悦な表情である。
若干一名ほど、エロメールで笑顔になってるヤツもいたが、まぁいつものことだし気にしないでおこう。
食事の後、「早く部屋に戻って、久しぶりにTV放映されるラピュタが見たい」とごねる総長を説得して、
近くにあったカラオケ屋で少し歌ってから宿へと戻った。
「ふー、なんか疲れたな」
「そうですね〜。いっぱい食べ歩きましたからね〜」
ベッドにゴロンと横になると、今すぐにも寝てしまいそうである。
疲れと腹の満たされ具合が、まさに絶大な破壊力であった。
だけど、俺は寝る前に1つだけやることがあった。
一応、礼儀の上で今日のうちにやっておかないと失礼である。
傍らのバッグを空け、中からあるものを取り出し――
「……観雪、これやるよ」
それを、観雪に手渡した。
「何ですか? これ」
「まぁ、その、何だ……。先月のお返しってやつだよ。素直に受け取っておけ」
チョコのお返し。
いくつになっても、相手が誰であっても、渡す時というのはちょっと照れくさいものであった。
「わぁ、ありがとうございます〜。嬉しいです〜」
素直に喜んでくれる観雪。こいつのいいところである。
これが皐だったら「まぁ、くれるんだったら受け取っておいてやるわよ」とか何とか言い出して、
また一悶着あるに違いない。
「今食べちゃってもいいですか〜?」
「いいけど……入るのか? かなり腹いっぱいいっぱいだろ」
「甘いものは入ることころが違うんですよ〜」
思えば観雪と関西旅行に出てから、今日でちょうど一週間。
その間、一度家に帰ったりもしたけど、まだまだ旅は終わらない。
明日はいよいよ九州へ。そしてその先にある屋久島。
まさに、これからが本番。
「あ、おいし〜。これ美味しいですよ、局長さん」
その時間も、こいつらがいればきっと楽しめるものになるのだろう。

<其の8 あとがき>
だいぶ時間空いちゃいましたが、屋久島旅行編の宮島に行った日の分書きました。
本当にこの日はいろいろ食いまくりましたねー。
宮島の牡蠣は本当にんまかった。
2月には牡蠣祭というのがあるらしいので、いつか行ってみたいものです。
さて、次回はいよいよ九州入り。
でもその前に……。其の9「下関ふくフクタワー」。お楽しみに(?)
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