●2003年03月 『あの土地へ…再び』編
其の10:35日雨の降る島
22003年3月16日。
「ドリームつばめ」を終点の西鹿児島で下車した俺たちは、
その足で鹿児島本港南埠頭へとやってきていた。
ここからはフェリーに乗り、何事もなければ昼には屋久島へ到着できる予定である。
鹿児島港はいくつかの場所に散らばっている。
鴨池港、鹿児島新港、鹿児島本港、桜島桟橋と、大きく分けて4つ。
鹿児島本港はさらに北埠頭と南埠頭に分かれており、
ジェットフォイルに乗るなら北、フェリーに乗るなら南に行かなければならない。
2つの埠頭は同じ港とはいえ少し距離があり、間違って逆の方に行ってしまうと大変なことになる。
ややこしいことこの上ない。
鹿児島本港南埠頭まではバスが運行している。
もっとも、西駅前を出るバスの始発が7時半頃なので、
6時に到着する「ドリーム」で来る人にとっては微妙な時間である。
朝6時から営業している駅周辺の銭湯(天然温泉!)で汗を流して時間を潰すのもありだと思うが、
3〜4人のグループならタクシーつかまえて行っても大して値段変わらないので、
無理にバスを待たなくても良いと思う。まぁ、この辺は好みの問題だろう。
んで。
俺たちはバス待ちがかったるかったので、タクシーつかまえて南埠頭へと来たのだが。
「……一体何がどーなってんのよ?」
皐が見つめる視線の先には、1台前の車で先行した師匠たちと、
タクシーの運転手らしき人物が談笑している姿。
状況が飲み込めないのは、俺も観雪も同じであった。
「おう、あんたらが青年たちの連れかァ!
いやな、こいつらがカワイイおねーちゃんのいる店ねぇかって言うから紹介してやってタンだよ。がっはっは」
運転手のおっちゃんは俺たちを見ると、総長の背中をバンバン叩きながらンなことを言い出した。
なんだかよくわからんが、下ネタの嗜好が総長や師匠と一致しているようである。
「しかし何だな、こんなカワイイお嬢ちゃんたちがいるなら、
おねーちゃんの店紹介するより、お城みてぇなとこ紹介した方が良さそうなもんだ、ナァ!」
朝から下ネタ全開。既におっちゃんは絶好調だった。
「……部長よ、これは一体何ナリか?」
俺はとりあえず、ターミナル内の土産物店に逃げ込んで他人のふりをしていた部長を捕まえて、事情を聞いてみる。
が、しかし。
「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン」
……どうやら関わりたくないらしい。
部長もマジメそうに見えて実はムッツリという噂があるけど、
それでもあのおっちゃんと師匠、総長は全く別次元の存在のようであった。
おっちゃんはその後もしばらくオゲレツトークを続けた後、
「なんだ、こんなに時間あるなら一緒に温泉でも入ってから来りゃ良かったな。元気でやれよ、青年!」
と言い残し、旧知の友と別れんばかりの勢いで去って行った。
「やべぇ、あのおっさん、かなりのエロス探求者だヨ」
「こりゃ、負けちゃいられないなー」
どーゆー点で負けていられないのか甚だ疑問ではあるのだけど、
まぁ、我がグループの2大オゲレツ担当には、とてもステキな出会いであったらしい、ということはわかった。

フェリーに乗り込み、イベントホール右奥の席に陣取った後、
俺たちはまったりモードに突入
……いや、もっとぶっちゃけて言えば、暇人モードに突入した。
(注:イベントホールは乗客なら誰でも自由に使えるラウンジのような場所です。
2等船室にいるよりずっと居心地が良いので、
この船を知っている人は真っ先にホールの良い席を陣取る傾向にあるようです)
屋久島まで4時間。
それなりの大きさを誇る船とはいえ、特にやることが無いのも事実である。
絶対に取れそうもないUFOキャッチャーや
脱衣マージャンなどがあるゲームコーナーもしょぼいし、
売店も小さめで大したものは売っていない。
しかも、この日は朝からの雨で甲板に出ることができない状況。
インフォメーションから貰ってきた屋久島パンフを見ていても
そんなに時間がかかるもんでもないし、
周囲を見回してみても、ヒマそうな表情をしている人が何人も見受けられた。
ウチのメンバーを見ていても、どこでも寝られる師匠は爆眠。総長はエロメール。
部長と皐はどこへともなく船内探検に出かけて行方不明で、
俺と観雪はイヤホンの左右を一つずつ使うようにしてウォークマン鑑賞。
まぁ、早い話が、各人暇な時に取るスタイルを踏襲していたわけである。
さて、俺と観雪が持ってきた何枚かのCDを全部聞き終わった後。
ふと窓の外を見るといつしか雨が上がっていたようで、甲板にも人がちらほら出ていた。
春の暖かな日差しが雲の切れ間から差し込んできて、美しいコントラストを作り出している。
時刻は既に11時半を少しまわった頃。屋久島までは、あと1時間。
時間的には……ちょうどいい。
「なぁ、観雪。ちょっとついて来いよ。面白いもん見せてやるから」
俺はウォークマンをしまった後、観雪を連れて2階へと階段を下りた。
波しぶきがかかる。
今日は風が少し強く、波もちょっと高め。
2階の甲板通路に出た俺たちは、船から少し身を乗り出すようにして、前方を見つめた。

――屋久島。
その一部が世界遺産に登録されるほど、貴重な自然を抱える島。
山には太古の歴史を今に伝える原生林、
そして、海には船と同じ速度で空を切るトビウオがヒラリ。
今回の旅の最大の目的地にして、最大の攻略ポイント。
その姿が、少しずつ目の前に迫ってきていた。
「風が気持ちいい……」
少し俺に寄りかかって、
楽しそうに、海を、島を見つめる観雪が、ちょっと素敵だった。

「風が気持ちいい……」
「師匠、殺す」
宮之浦港の近くにある、屋久島環境文化村センター内のレストランで簡単な昼食を注文した後、
ニヤニヤした表情で師匠が、どっかで聞いたセリフをポツリ。
「う〜……師匠さん、見てたんですか〜?」
観雪が、そんな師匠に避難の声をあげた。
……もっとも、そんなんじゃ言っても意味無いと思うけど。
「ちーっとタバコ吸おうと思って下へ行ったら、どっかで見たことある姿があったからネ」
出歯亀は否定せんのか。確信犯だな、師匠。
「まー、でも別にラブラブなことしてたとか、そういうんじゃないんでしょ?
だったら別にいーじゃん。気にしたら負けよ、負け」
ちょっと珍しいフルーツ・ジュースを飲みながら、
皐はちょっと不機嫌に言った。
「あ、皐さん、ひょっとしてさっきの、ちょっと気にしてます?」
「ふーんだ。いいわよ、どーせあたしは脱衣マージャンスキーのエロエロ娘ですよーだ」
「い、いやだからそんなこと言ってないじゃないですか。たまたまウロついてる皐さんを見かけただけで……」
部長、ちょっと修羅場。
まぁ、何があったかは敢えて聞くまい。
屋久島での交通はレンタカーかバスが基本。
もっとも、バスも本数が少ないので、免許があればレンタカーを借りるのが一番である。
我々一行も、レンタカーを使っての移動となる。
手続き終了後、早速車に乗り込み、一路安房方面へと向かった。
屋久島と言えば杉というくらい、屋久杉は有名である。
しかし、杉が生えているのは標高1000m〜1500mくらいの標高の間だけ。
低地ではそもそも針葉樹自体お目にかからないし、気候自体が杉のある環境じゃない。
つまり、杉を見るためにはそれなりに山を登らなければならない。
屋久杉っつーもんは、そう簡単に見られるものではないのである。
しかし、車さえあれば簡単に見られる屋久杉も中には存在する。
紀元杉。
樹齢3000年とも言われるこの杉は、ヤクスギランドよりもさらに奥に進んだところにあるが、
傍まで車道が通じているので、登山の必要無しに見ることができる。
俺たちは宮之浦港から車を走らせ、この紀元杉までやってきていた。
俺と師匠は2年前にも訪れた場所。
屋久杉の大きさ、迫力を身を以って知った場所。
それが紀元杉。
2年ぶりの再開――だが、それはこの木の一生からすれば、ほんの一瞬の短い期間。
紀元杉は、あの時と変わらず、どっしりとした風格で我々を迎えてくれた。
「これが屋久杉……大きいわねー」
さすがの皐も呆気に取られている。
よく、どこかしらの神社で見られる御神木の類よりも大きいと思われるその迫力。
ガイドブックの写真なんかではわからないような重厚さが、そこにはあった。
しかし。
「縄文杉ってこれよりでっかいんダロ……。一体どんな大きさだっていうんダ?」
師匠の言う通りである。
俺と師匠が2年前、時間不足でチャレンジすることができなかった縄文杉登山。
その先にある屋久島最大の杉の大きさがどれほどのものなのか。
そもそも巨木自体を見ない現代人の俺らからすれば、とても想像などできない。
「ま、全ては明日ってか。なんかワクワクしてきたな」
俺の一言に、みんなは頷いた。
そう。紀元杉は入門編。本番は明日の縄文杉。


紀元杉の近くで「紀元命水」という湧水を飲んだ後、
車を元来た方に走らせてヤクスギランドへ向かった。
ここは屋久島に来た人なら、ほぼ誰もが訪れるであろう観光スポットである。
屋久島の原生林を、特に装備がなくても気軽に楽しめる場所であり、
白谷雲水峡と並んで人気の高い場所でもあった。
ここにはいくつかのコースが存在するが、
普通の観光客は30分か1時間程度のコースに留めておくべきである。
それ以上のコースになると、いくら管理されていても装備なしでは厳しくなる。
それに、奥へ進むとそのまま登山道に繋がっている道もあり、
変なところに迷い込みかねないという心配もある。
まぁ、早い話が無茶はしない方が良いということ。
俺たちも時間がそんなにないし、雨がパラついていることもあって、
30分コースを進むことにした。
「そういえば、2年前も雨だったな……」
「ふふふ、局長さん、雨男ですもんね〜」
「うるせぇ。マイシスターに比べりゃマシだ」
ただでさえ日が木々に遮られて暗くなる森の中、小雨とあっては日暮れ頃かと思うような薄暗さ。
俺は、そんな森の中の道を歩きながら、いつか晴れた時のヤクスギランドも見てみたいなと思った。

ヤクスギランドから宮之浦へと戻る途中、ちょうど見つけたスーパーで
明日の登山で必要な非常食、ドリンクなどを買い込む。
屋久島には24時間営業のコンビニが存在しないから、必要なものは前日に買い込まなければならないのである。
(弁当は朝弁当屋があるので、予約しておけば登山当日の早朝に受け取りが可能)
買物の後さらに車を走らせて、俺たちは宮之浦にある民宿八重岳へと向かった。
これから数日間の宿がここ。1泊2食で6000円。屋久島ではだいたい相場かな、という価格である。
チェックインの時に明日の朝弁当も予約。宿で朝弁当を作っているわけではないが、
ここで言えば宿の方から朝弁当屋に予約を入れてくれるので手間が省ける。
受取りや支払は朝弁当屋でやらなければならないが、予約だけでもやってくれるとだいぶ違うもんだ。
明日の朝食を弁当に置き換えることも可能だと言われたので、それもついでにお願いし、明日の準備は万全。
案内された部屋は少し大きめの部屋で、荷物の多い俺たちにはありがたいものであった。
「……なんか、すげぇ量だな」
屋久島の郷土料理らしきメニューがズラリと並ぶ。
夕食タイム。出された食事はかなりのボリュームであった。
大食漢の総長や皐は問題ないだろうが、小食な俺や観雪には大変な量である。
……え? 俺が小食なのが信じられないって? ほっとけ。
「それはトビウオの卵を使ってるんですよ。
あまり東京の方じゃトビウオなんて食べないですよねー」
配膳係のおねいさんが、いろいろ料理の解説をしてくれる。
「トビウオは食べたことあるけど、卵は初めてだよ」
などと会話しながら食事を終えると時刻は8時。
部屋に戻って明日の準備をして風呂に入ると、既に10時をまわっていた。
「さってと、明日は早いし、そろそろ寝ますかねぇ」
電気を消して、布団に入る。
いよいよだ。明日、とうとう縄文杉を見ることができる。
明日の天気予報は晴れ。
一日崩れることはないだろうという絶好の登山日和。
もちろん、山では何が起こるかわからないけど、それでも明日は素晴らしい一日になる。
そんな気がして、布団に入った後も、俺はなかなか寝付けなかった。

<其の10 あとがき>
つーわけで、また前のを書いてから少し時間空いちゃいましたがー。
とうとう屋久島到着です! いやー、長かったね。
屋久島は全部で4日間あるので、かなり大変です。
少しでも屋久島の魅力が伝わればいいなとは思うんですが……無理だな、こんな拙い文章じゃ(笑)。
まぁ、次回分もなるべく早く書こうと思います。
ではまた次回、「辿り着いた場所」でお目にかかりましょー。
とうとう縄文杉登山です。はりきっていきまっしょい。
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